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山について語るときに僕の語ること(What I Talk About When I Talk About Mountain)

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2009年 08月 31日

喪われた聖地

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北岳からの下山途中、林道が通る前の北沢峠は本当にすてきな場所だった、という話をYさんからうかがった。
南アルプスの北沢峠は幾度も訪れているが、そのような思いで眺めたことは、――おそらく私以外のほとんどの登山者がそうであるように――一度もない。
若き日のYさんと同じように、冬には私も戸台から歩いて北沢峠まで行ったことがあるが、その時でも北沢峠に着いて何らかの感興を抱くということはなかったのである。
もっと有名な観光地ならともかく、それが北沢峠というむしろ地味な印象の場所であったから、Yさんのお話は逆に新鮮だった。

静かで落ち着いた雰囲気で、本当にいいところだったんですよ……。
そんなYさんの言葉に耳を傾けながら、今では“何の変哲もない場所”になってしまった北沢峠のありし日の姿に想いを馳せた。

道路や交通機関が通じたことで、同じように“喪われた聖地”は、日本にはたくさんあるのだろう。
黒部も、尾瀬も、上高地も……。
喪われた聖地_d0138986_12391176.jpg

立山の室堂も、そんな“喪われた聖地”の代表に挙げられる、と思う。
室堂とその周辺がどれほど素晴らしい場所であるかということに、そこを訪れるほとんどの人は気づいていないのではなかろうか?

室堂から弥陀ヶ原方面への道を歩いてみよう。
登っても下ってもよい。
広々とした高原・湿原の中に木道が続く、気持ちの良い道である。
室堂からわずかに下がった天狗平もよい場所だ。
バスに乗れば室堂から10分もかからないところだが、室堂の喧騒から逃れ、また趣きの異なる風景を楽しむことができる。

室堂はおそらく、涸沢に勝るとも劣らない日本山岳最高の景勝地の一つであったと思うのだが、アルペンルートが通じてしまったがために、涸沢のような“聖地”の座を保てなかった。
私はそれを否定も肯定もしないけれど、ただそこに一抹の寂しさを覚える。

こんど北沢峠を訪れた時は、まわりの風景をいま一度じっくりと味わってみよう、と思う。

by uobmm | 2009-08-31 13:03 | エッセイ | Trackback


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