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山について語るときに僕の語ること(What I Talk About When I Talk About Mountain)

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2009年 09月 14日

秋の空

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剱岳の熊ノ岩は、穂高の奥又白などと並び、クライマーの別天地と称される最高の幕営地である。
長次郎雪渓の右俣と左俣を分かつ高台は、文句のつけようのない景観に囲まれている。
平坦で居心地がよく、水がとれ、周囲の景色はあまりに素晴らしい。
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熊ノ岩から八ツ峰・Ⅵ峰フェースの取付きまで、わずか15分たらずである。
Ⅵ峰Cフェースから八ツ峰上半を登った私たちは、4時間かからず、午後1時前には再び熊ノ岩に下りてきた。
「することもないし、とりあえず、飲みますか」
Yさんが言った。

雪渓で冷やしておいた500㎜の缶ビール2本と赤ワイン。
生ハムとキューり、チーズなどなど……。

快適なクライミングを終え、まだ陽の高い時間からここでビールとワインを飲む贅沢さは、熊ノ岩に泊まったことのある人ならきっと理解してくれることだろう。
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見上げれば、澄んだ秋空には、うろこ状の雲が早い速度で流れていた。
その雲をじっと眺めてていたら、なぜだか秋のせつなさが、ひしひしと胸にせまってきた。

私は季節の中では夏が一番好きだった。
夕暮れより、朝方の方が好きだった。
秋のはかなさや夕暮れのさびしさは、若い私にはシンパシーを感じさせるものではなかったのだ。

けれど、いつの頃からか、朝焼けより夕焼けに心が感応するようになった。
いま、秋という季節のせつなさが、なんだかとてもいとおしい。
この俗界から隔絶された岳人たちの庭園で、澄んだ秋空を眺めている時間はあまりにも貴重だ!
秋の空_d0138986_1920192.jpg

ビールとワインは空になり、まだ飲み足りなかったが、それでも少し酔ったようだった。
まだ暗くなるには早い時間だった。
山は変わらず静寂のままで、雲はまだ流れ続けていた。

by uobmm | 2009-09-14 19:16 | エッセイ | Trackback


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