10月15日
甲斐駒のふもと、白州町の日向(ひなた)山は思い出深い山だ。
5年前、小淵沢の町に移り住んでまもない頃、一人で夕暮れ時に登ったことがある。
日向山に登るつもりで出かけたのではなく、クライミングに使えるボルダー(小さな岩)を探して登山道を辿るうち、引き寄せられるかのように足が上を上を目指し、結局山頂まで登ってしまったのである。
カラマツの黄葉がすばらしくきれいな季節だったから10月下旬か11月初旬l頃だったろう。
日没近い時刻にもかかわらずヘッドランプも何もない、身一つだった。
そして山頂で忽然と目の前に開けた光景。
あの時の感動は忘れ難い。
夕闇せまる人気のない山頂には寂寥が漂い、その孤絶されたような感覚が風景にいっそうの凄みを与えていたのだと思う。
ふとしたことからYさんと二人で、日向山の山頂を目指すことになった。
カラマツの黄葉にはまだ少し早いが、あの時と同じ夕暮れまじかという刻限だった。
日向山にはあれから何度か登っているが、こんな時間に登るのは、そしてこれほど天気のいい日に登るのは、5年前のあの日以来のことかもしれない。
あの時私が受けた感動を、Yさんにも少し味わってもらえただろうか……。