山について語るときに僕の語ること(What I Talk About When I Talk About Mountain)

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2008年 07月 22日

偶然の旅人

2008年7月15日
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村上春樹に『東京奇譚集』という短編集がある。

平日の、閑散としたショッピングモールのカフェで、本を読んでいた主人公の男性は、隣で同じように静かに本を読んでいた女性からおずおずと声をかけられる。
「あの、今お読みになっておられるご本なんですが、それはひょっとしてディッケンズじゃありませんか?」
なぜ、女性がそんなことを見知らぬ男性に尋ねたかといえば、偶然にも、彼女もまったく同じ本を読んでいたからだ。
しかもその本は世間に広く流布しているベストセラー小説ではなく、『荒涼館』という、チャールズ・ディッケンズの、あまり一般的とは言えない作品だったから。

「偶然の旅人」というこの小説を、村上春樹はわざわざ事実であるという断り書きをした上で書き出しているのだが、それが事実であるか否かは別として、「偶然の旅人」はとてもよい小説で、『東京奇譚集』はこの1作を読むために買う価値があるといっても過言ではないほどだ。

南アルプスの両俣小屋を訪れるのは実に24年ぶりだった。
大学1年生の夏、一人でテントを担いて南ア北部を1週間かけて縦走した、その時に泊まったのである。ちょうど台風が来て1日停滞し、持参していた司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を、テントの中でひたすら読んでいた覚えがある。
『竜馬がゆく』を読んでいると気が大きくなって、「台風でも何でもどんと来んしゃい!」というような気分になったものだ…。
というような話を同行のお客さんに話したりしながら両俣小屋に着いたのだが、私がここに来るのは24年ぶりだというと、24年前にもいたという小屋番の星さんが、24年前の小屋のノートを持ってきて私の前にぽんと置いた。その時私が何か書き残していったのではないかというのである。小屋泊まりの人より、むしろテントの人のほうが書いていくこと多いのよ、と星さんは言う。
ノートに何か書いていったような記憶はなかったが、むろん24年前のことであり、さだかには覚えていない。もしかして何か書いていたら、(ちょっと恥ずかしいけど)面白いな……。
パラパラとノートをめくった私はすぐに一つの書きつけに目を奪われる。

「1984年8月22日(水)
台風のため停滞。私は「竜馬がゆく」をむさぼるように読み狂うのだった。食料の心配? ナンセンス! 何を隠そう私は食料を8千円分買い込んできたのである。時にはカップスター、気が向けばお好み焼……」

台風? 「竜馬がゆく」? えっ、えっ!?
その文面は自分の文章のような感じはしなかったし、筆跡も違うような気がする。
でも、台風! それに「竜馬がゆく」! えっ、えっ!?

結局それは私が書いたものではなかった。文章の最後に、「野武士登山を目指す中川君でした」と名前が書いてあったからだ。
ああやっぱり、と思った。
……。
しかし、である。
台風で停滞ということは、すなわちそれは私が泊っていたのと同じ日ということではないか!?
あの時天気が崩れたのは一日だけだった。
あの時両俣小屋に張られていたテントはほんのわずかだったような記憶がある。
ノートの文面から判断して、「中川君」もテント泊であり、かつ単独行に違いなかった。
要するに「中川君」と私は、南アルプスでも人の少ない両俣小屋に同じ日にテントを張り、同じように台風で停滞し、そして同じ『竜馬がゆく』を同じように読みふけっていたことになる。

私たちはきっと1度や2度はテントの外で顔を会わしていたのだろう。
「中川君」も私と同じように、「台風でも何でもどんと来んしゃい!」という気分になっていたのだろうか? 
そう、もちろんなっていただろう。

「野武士登山」を目指していた「中川君」は今いったいどうしていることだろう…?
私は19歳だった自分の姿を思い浮かべようとした。
そしてサンダルをはき小屋の外に出て、24年前に自分がテントを張った辺りを少し歩いた。







 

by uobmm | 2008-07-22 22:31 | エッセイ | Trackback
2008年 07月 18日

錫杖岳1ルンゼ

2008年7月12日(土)~13日(日)
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土曜日に小川山で「南稜下部」というマルチを登り、その足で私たちは平湯温泉へと向かった。

d0138986_1051684.jpg新穂高温泉にほど近い錫杖岳の岩場には近年続々と質の高いフリールートが拓かれている。今では穂高の岩場よりも訪れる人はずっと多いのかもしれない。
日曜日、日本の本ちゃん岩場にしては短い、けれども日帰りで往復するには少々長いアプローチをこなし、錫杖岳前衛壁へ。
昨日も今日も天気はよいが、私たちの登る1ルンゼはところどころ濡れていて、いつもよりちょっと悪かった。それでも同行のTさんは、私が苦労するかなあと思った箇所なども無難にこなしてくる。ご一緒するのは昨日が初めてだが、基礎がしっかりできているし、登るのも上手だ。

振り返れば穂高や焼岳の雄大な連なり。眼下には緑濃き初夏の森……。
午後1時、ちょうど終了点に着く頃、天気予報を裏切り、ぽつぽつと降り出した。
懸垂下降だ。さあ、急げ! 
雨はいったん強くなり、そして3回目の懸垂下降を終える頃にはほとんど上がり、灰色の雲の切れ間から、再び青空が顔を出した。

by uobmm | 2008-07-18 10:54 | クライミング | Trackback
2008年 07月 11日

北岳②

2008年7月5日(土)~7日(月)
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d0138986_11144670.jpg北岳がどれほど素晴らしい山であるかということに、若い頃は気づかなかったし、ガイドにならなければあるいは今でも気づいていなかったのかもしれない。

本邦第二の標高を有し、北岳バットレスという一大岩壁を抱く。
それだけでなく、北岳には花がある。
稜線を彩る数々の高山植物に加え、ミヤマハナシノブやサンカヨウなどに代表される大樺沢沿いの中腹の花もまた見事である。
北の白馬、南の北岳というのが、日本アルプスを代表する花の山ではないか、と私は思う。

d0138986_11131948.jpgキタダケソウ。
そして北岳にはこの花がある。
地球上で、この山のかぎられた場所にだけしか咲かない花があるということ。
私は初めてではないけれど、それでもこの花の咲いている場所に近づいてゆくとき、今回もまたかすかな胸の高鳴りを覚えた。

★秋~冬の募集企画を追加いたしました。ホームページをご覧ください。

by uobmm | 2008-07-11 11:24 | 南アルプス(一般登山) | Trackback
2008年 07月 10日

北岳

2008年7月5日(土)~7日(月)
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北岳に夏空広がる。
去年ほどではないが豊富な残雪。
緑はまだまるで新緑のように明るい……。
いよいよ梅雨明けかな……。

by uobmm | 2008-07-10 13:47 | 南アルプス(一般登山) | Trackback
2008年 07月 09日

日光/刈込湖・切込湖

2008年7月3日(木)
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日光の刈込湖・切込湖と言っても聞いたことのない人がほとんどだろう。
どこかのピークに立つわけではない、何てことのない短いハイキングコースだが、実にすばらしかった。
2つの湖も静かでよいところだが、後半の涸沼もとても美しかった。

日光に行く機会は私も少ないし、山は日光白根と鳴虫山くらいしか登っていない。
登山地図を広げれば、よさそうな山やよさそうなハイキングコースがまだまだたくさんあって私に手招きしている。

by uobmm | 2008-07-09 11:04 | ハイキング | Trackback
2008年 07月 08日

権現岳~赤岳~硫黄岳③

2008年7月2日(水)
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天望荘から横岳、硫黄岳と縦走する。
今日もよく晴れて、登山者たちはうれしそうである。

7月の山はいい。
まだそれほど暑くなく、雷の心配も少なく、花は多い。
梅雨明け、ではなく梅雨入りを待って、また来年も高い山に登ろう。
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by uobmm | 2008-07-08 15:30 | 八ヶ岳(無雪期) | Trackback
2008年 07月 08日

権現岳~赤岳~硫黄岳②

2008年7月1日(火)
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d0138986_15181331.jpgギボシと権現岳を越え、赤岳へと向かう。
空は穏やかに晴れ渡り、風もなく、山は静かだった。
稜線は予想にたがわず高山植物の楽園だった。
南八ヶ岳には冬しか行かない人も少なくないし、険しい岩の山という印象が強いが、実は本州を代表する花の名山でもあるのだ。
梅雨のさなか、そう、6月下旬から7月上旬頃にかけての南八ヶ岳の稜線に、喜ばぬ花好きはいないだろう。

平日でも多くの登山者が憩う盟主・赤岳に登り、五右衛門風呂のある今日の宿、赤岳天望荘へと下った。

by uobmm | 2008-07-08 15:19 | 八ヶ岳(無雪期) | Trackback
2008年 07月 04日

権現岳~赤岳~硫黄岳①

2008年6月30日(月)
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夕食を終えて青年小屋の外に出ると、先ほどまでの梅雨空がうそのように晴れ渡り、ギボシと権現が午後の陽を浴びて美しく輝いていた。
辺りには懐かしい夏山の香りがした。
すでに6時30分だったが、澄んだ空気とあまりの眺望に、私はまるで吸い込まれるかのように、編笠山頂への道を登っていった。
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ピラミダルな赤岳と阿弥陀岳が顔をのぞかせた。
誰もいない夕暮れの山頂に一人佇み、時計が午後7時を示すまで、高い山に上がらなければ見られない、その清らかな風景を堪能した。
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by uobmm | 2008-07-04 13:34 | 八ヶ岳(無雪期) | Trackback